『Deep Night』




 浅倉はツアーの、黒田はレコーディングの合い間を縫って、束
の間得た2人だけの時間。いつだったか浅倉が2人で会うのは
宝捜しのゲームみたいだと言っていたのを思い出す。探しても探
しても見つからない、でも、だからこそ見つけた時はとても幸せ
を感じる大切なもの。本当にその通りだな、なんて思いながら黒
田は1人くすっと笑った。
「え、なに?」
 傍で突然笑いを漏らした黒田に浅倉は不思議そうに振り返る。
「いや、なんでもない」
「なーに?思い出し笑い?ヤラシイなぁ」
「どーせね」
 そう言って軽いキスを落とすと浅倉は何故か首を振って嫌がっ
た。何か怒らせるようなことでもしたのかとその目をのぞきこむと
浅倉はほんの少し頬を染めてうつむいた。
「だって……」
「だって?」
「いつもさ、会って、そーゆーコトして、朝が来たらバイバイでしょ?
 なんだか、それだけが目的みたいじゃない……?」
 いつも時間がない自分たちだから。ほんのわずかな隙間を縫う
ような逢瀬だから、時々不安になる。本当に愛しているのか。愛
されているのか。心は、体を重ねるだけでは伝わらないんじゃな
いだろうか。
「……オレはそんなこと思ったことないけど……でも大ちゃんがそ
 う思うなら、いいよ。今日はいっぱい話して。ちゃんと聞いてあげ
 るよ」
 黒田はそう言って肩を抱き寄せ、髪にキスをした。いざ話して、
と言われると何から話したらいいのか分からなくて、思わず黙りこ
んでしまう。その間に黒田の肩に回された手が頬や首筋を柔らか
く撫でてきて、浅倉は頬を染めたまま身を捩った。
「これじゃ話できないよ」
「なんで?何もしてないよ?」
「十分してるって!」
「あれ、もしかして感じちゃってる?」
 意地悪にそう聞かれてますます頬が赤くなる。口が裂けても図
星だ、なんて言えるかと浅倉は心の中で思っていたが、その赤い
頬が雄弁に物語っていることには気づいていないのだった。黒田
は笑いながら両手を挙げ、少し浅倉から離れた。
「分かった、じゃあ何もしない。これだけ離れてたらいいでしょ?」
 その瞬間浅倉が、物足りない、とでも言いたげな表情を浮かべ
たのを黒田は見逃さなかった。無意識に自分を求める彼が、とて
も愛しい。
「……意地悪だ」
 ふてくされたようにそう言う浅倉に黒田は目を細めて微笑む。
「大ちゃんが話出来ないって言ったんじゃん」
「それは、だって……そうだけど……」
 ぷっと頬を膨らませて目を逸らせた浅倉だったが、すぐに思い
直したように黒田を振り返るとその腰を跨いで首筋に腕を回し、
自分からキスをした。それはとても不器用なキスだったけど、黒
田の熱を煽るには十分だった。
「お話するんじゃなかったの?」
「……もういい。黒田のせいだからね。責任取って」
 そう言って浅倉はもう1度キスをした。黒田はされるがままになっ
て、滅多にない浅倉からのキスを楽しんでいたが、それに気づい
た浅倉が不満そうな声をあげる。
「……バカ」
「は?何で?」
「なんか面白がってない?」
「そんなことないよ」
「嘘だ。絶対面白がってる」
 むーっと唇を尖らせた浅倉に笑いながらキスをして、その頬を両
手で包み込んだ。
「分かったよ。じゃあ気持ちよくしてあげる」
 そう言ってゆっくりと顔を近付け、その唇を舌でなぞる。ビクリと
体を竦ませて反射的に逃げようとする浅倉の腰に腕を回して引き
寄せ、そのまま深い口づけを与える。吐息さえ許さないような、そ
んなキス。肩に置かれた浅倉の手がぎゅっとシャツを握り締め、
確かな快楽を得ていることを示す。
「好きだよ……」
 唇が掠める距離で囁くと、浅倉は小さく頷いて再びキスを求め
た。
「黒田……」
 キスで紅く熟れた唇が自分の名前を呼ぶ。それだけで体が熱
く疼き始める。跨いだ部分からジーンズを通してさえ感じる黒田
の変化に、浅倉はわざと腰を押し付けるようにしてその目を見つ
める。黒田の反応を楽しむように緩やかに浮かべられる微笑み。
だから黒田もその悪戯に応戦する。指先で頬のラインをなぞり、
そのまま首筋を辿ってゆっくりと下に降ろしていく。薄いシャツが
見せる2つの色づきには触れず、ただ戯れのように指先で体の
ラインを辿っていく。シャツ越しに感じる、触れるか触れないかの
指先に肌がざわつく。
「もう……やだ……」
 耐え切れなくなって震える息と共にそう言うと、黒田は口元に
笑みを浮かべた。
「オレの勝ち」
「……なんだよ、それ」
 上気した頬で、潤んだ瞳で睨まれてもそれは艶を増すだけで、
黒田は浅倉を乗せたまま押され気味だった姿勢を正した。そして
シャツの裾から両手を差し入れ、脇腹を撫で上げるようにして邪
魔なそれを剥ぎ取る。ほんのりと赤く染まった肌にそっと唇を寄せ
ると、既に敏感になっていた浅倉はそれだけで熱い吐息を漏らし
た。
「痕、つけていい?」
 耳元で囁くと、浅倉は小さく頷いた。黒田は唇を首筋に移動させ
てゆっくりと口付ける。
「あっ、そこはだめ……」
「えぇ?」
 突然ストップをかけられて黒田は不満そうな声を漏らす。
「いいって言ったじゃん」
「そんな目立つとこはだめ。一応ボク今ツアー中なんだから」
「……そう言われると余計つけたくなるな」
 冗談とも本気とも取れる言葉に浅倉はふるふると首を振った。
「じゃあどこならいいんだよ」
「衣装で隠れるとこ」
「……衣装知らねーんだけど」
 苦笑して言うと浅倉は少し口を閉ざし、そしてぽつりと言った。
「もっと下……かな……」
 そう言った瞬間かあっと赤くなって俯いてしまった。そんな姿が
可愛くて、つい性急になりそうになる。しかしそれを抑えて、黒田
はゆっくりと唇を下げていく。
「……この辺は?」
「もうちょっと……」
「注文が多いなぁ」
 呆れたように言うと浅倉は少しふてくされた。
「嫌ならやめてもいいよ」
「そ?じゃあやめよっか?」
 意地悪をこめてそう言うと、浅倉は複雑な表情を浮かべて黙り
込む。やめてともやめないでとも言えず、ただ黒田の目を見つめ
るだけだ。しばらく沈黙が続いたが、黒田は苦笑して優しいキス
をした。
「嘘だよ、ごめん」
 そう言って何の前置きもなく胸の突起を口に含むと、突然の快
感に浅倉は大きく背中を反らせた。黒田は舌先でそこを弄びな
がら少しずつ手を下ろしていく。華奢なラインを惜しげもなく晒す
スリムなパンツに手をかけ、わざと時間をかけてその前を開いた。
そして浅倉の熱を手に抱くと、その体が大きく震える。
「や、だ……」
「……なんで?」
「だって……ボクだけなんて……」
 恥らうように伏せられる瞳に誘われながら、黒田は少し力をこ
めて浅倉の欲を煽る。
「大ちゃんがイク顔、見せて……」
「……っ、変態っ」
「なんとでも」
 浅倉はこの状況から何とか逃れようと試みるが、却ってそれが
刺激となり閉ざした唇から甘い吐息が漏れる。緩急をつけて煽る
手と肌を這う唇に耐え難い快楽が体中を襲う。
「やだ……ホントに……」
「いいよ、イッちゃって」
 軽く音を立ててキスをすると、浅倉は大きく首を振った。必死で
解放を抑えているような様子に黒田は更に手に力をこめる。
「いいから……大ちゃん……」
 その瞬間、浅倉の体が大きく跳ねた。声にならない声を上げ、
黒田の手の中に全てを放った。
「ご、ごめ……」
 肩で激しく息をしながらそう言うと黒田はゆっくりと微笑んだ。そ
して手や指についた浅倉のものを舌先で舐め取る。わざと音を立
てて、浅倉の目を見つめながら。
「もう……っ、変態変態っ。黒田のバカっ」
「気持ちよかったでしょ?」
「それ、は……でも、やっぱやだ。1人だけなんて、恥ずかしいよ」
「すっげーイイ顔してたよ」
 くす、と笑ってそう言うと、浅倉は真っ赤になりながらそれを隠す
ように黒田のシャツに手をかける。
「一緒がいいの!……それとも黒田は触ってるだけでいいの?」
「まさか」
「じゃあ……早く」
 甘く誘われて、黒田はその唇に優しく触れた。
 







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