『新しい永遠へ』


 日付が変わり、大晦日から元旦にかけてカウントダウンイベントを
行った浅倉を迎えるために伊藤は会場の駐車場にいた。彼の演奏
だけを見て車の中で待っているのだ。楽屋で待っててと言われたの
だが、知らないスタッフも多くいる中で待つのは気が引けたから。
 シートを少し倒して新年の挨拶をメールしていると、フロントガラスの
向こうでキョロキョロと自分を探す浅倉を見つけた。
「大ちゃん」
 運転席から身を乗り出して手を振ると浅倉がそれに気づいて笑顔
を見せた。自分を見つけた瞬間の、どこかほっとしたようなその笑顔
が好きだと言ったら彼は怒るだろうか?
「楽屋で待っててって言ったのに」
 案の定ぷっくりと頬を膨らませて拗ねる浅倉に、ごめんね、と神妙
な顔を作る。
「そんな顔したってダメだよ」
「じゃあどんな顔すればいい?」
「そんなの自分で考えなよ」
 ぷん、と顔を背ける浅倉に伊藤はくすくす笑った。今年もこの可愛
い気まぐれに振り回されそうだな、なんて思いながら。そして車を出
そうとエンジンキーに手をかけた。
「待って」
「何、忘れ物?」
「違う。ボクに何か言うことあるでしょ?」
「言うこと?」
 なんだろう、と首を傾げた伊藤は、あぁ、と納得する。
「あけましておめでとう」
「うん」
「今年もよろしくね」
「うん。ボクも、よろしくね」
 そう言ってにっこり笑う浅倉を抱き寄せて髪にキスをすると、彼は
笑いながら逃げた。
「こんなとこでそういうことしないの」
「え〜?新年の挨拶なのに」
「そういうのは、おうち帰ってから。ね?」
 いい子だね〜と、まるでアニーをなだめるような口調に伊藤は唇
を尖らせた。そしてエンジンをかけてゆっくりと走らせる。
「眠い?」
 助手席でしきりにあくびを噛み殺す浅倉に気づいて声をかける。
「んー、さすがにオールだしね」
「寝てていいよ?」
「うん、平気」
 そう言いながら目をしょぼしょぼさせる浅倉に微笑んで伊藤はカー
ステレオのヴォリュームを下げた。それが心地よかったのか、次第
に浅倉は深く瞬きをして、そしてしっかりと閉じられていく。可愛い
無防備な寝顔に伊藤の顔も緩む。正月早々良いもの見てるなあ、
と思いながら静かに運転をするのだった。

「大ちゃん、着いたよ」駐車場に車を止めて隣で眠る浅倉の肩を静
かに揺さぶると、小さな声を漏らして寝返りをうった。すっかり熟睡
モードに入っている姿につい悪戯心が芽生える。運転席から身を
乗り出して浅倉に覆い被さるとその耳たぶを甘噛みした。
「大ちゃん」
 ベッドで呼ぶように低く甘く囁くと彼の細い腕がゆっくりと首に回
された。その無意識の行動につい顔が緩む。
「愛してるよ、大ちゃん……」
「ん……」
 返事とも吐息とも取れる声で答えた浅倉だったが、はっと目を開
けると伊藤の体を力いっぱい押しのけた。
「もおっ、サイテー!」
 真っ赤な顔で睨まれてもあまり怖くはない。
「だってすごい色っぽい顔で寝てるんだもん。つい」
「つい、で駐車場なんかでサカるのか!?部屋まで我慢しろ、バ
 カ!」
「……結構すごいセリフですよ、浅倉さん」
「うるさいっ」
 キッと睨んで浅倉はさっさと車を降りた。ぷりぷり怒った姿も、実
は可愛かったりする。伊藤はその背中を追いながら、やはり締ま
りない顔になるのだった。
「機嫌直してよ」
 ソファに座って、隣で相変わらず不機嫌な浅倉の顔をのぞきこ
みながら伊藤は言った。
「別に機嫌悪くなんかしてないもん」
「ならこのぷっくりほっぺは何?」
 そう言って浅倉の頬を指先でつつくと、むっとしたまま立ち上が
り、そして伊藤の腿を跨いでその膝に腰を下ろした。
「伊藤くんが悪いんだから」
 浅倉はそう言いながら両手で伊藤の頬を挟むと、ゆっくりと顔を
近づけていく。そして啄むようなキスを何度か繰り返してから深く
唇を合わせて舌を差し入れた。突然の浅倉からのキスに驚いて
いた伊藤だったが、すぐにその細腰に腕を回すとキスを返そうと
した。しかし次の瞬間。
「いや」
 首を振って唇を離すと短くそう言った。そしてまたキスを仕掛け
てくる。それに返そうとするとまた拒絶される。
「やだってば」
「何が嫌なの?」
 伊藤の困惑に浅倉はゆるりと笑って指先で彼の唇をなぞった。
「伊藤くんにはさせてあげない」
「えぇ?」
「悪戯した罰」
 浅倉は何度も緩やかに口づけては伊藤の反応を窺う。最初は
浅倉からのキスを楽しんでいた伊藤も、次第にその焦れったさに
眉をしかめ始めた。
「ねぇ、大ちゃん」
「だーめ」
 浅倉はくすくすと笑って伊藤の舌を翻す。
「拷問だよ……」
「知らない」
 ふふっと笑って浅倉は頬に置いた手を少しずつ下げていく。ゆっ
くりとシャツのボタンを外して、それを床に落とす。そして伊藤の膝
から降りると床のカーペットに膝をついてから彼の腰に腕を回した。
悪戯っぽく微笑んで、そっと肌に唇を寄せる。首筋から鎖骨、そし
て胸へと滑らせながら唇と舌で愛撫する。
「大、ちゃ……ヤバいって」
 ただでさえ久しぶりの行為だ。それなのにこんな艶っぽい瞳で見
上げられながら肌を愛撫されたら感じないはずがない。
「気持ちイイ?」
「イイけど……複雑」
 その言葉にくすりと笑って浅倉は妖しく微笑した。そして伊藤は制
止する間もなく自らの欲をくわえられて思わず身を引く。
「そ、それはちょっと……」
 伊藤の焦りなど全く意に介する風もなく浅倉は唇で食むようにそれ
を口の中に導いていく。もう幾度となく繰り返した2人の睦事だから、
浅倉は伊藤がどうすれば感じるかを知っていた。指と唇と舌で少しず
つ、しかし確実に追いつめていく。
「出していいよ?」
 息を荒くする伊藤に浅倉は余裕の笑みを浮かべた。そして放熱を促
すかのように強く唇を上下させる。
「あーもうサイアク……」
 伊藤はそう呟くと浅倉の頭を押さえてその口内に自分を放った。そし
て浅倉はゆっくりと伊藤から離れると小さく笑いながら舌先で唇をなめ
る。
「浮気、してないみたいだね」
「してないよ!もう……」
 浅倉は深いため息をつく伊藤の膝に再び乗って肩に腕を回した。
「サイコウのお正月でしょ?ボクがしてあげたんだから」
「そうかなぁ……」
「なに、不満なの?じゃあもう1回しようか?」
「いやっ、もう十分です!」
 自分ばかりイカされたのではたまらない。伊藤はぶんぶんと首を振っ
て膝の上の浅倉を抱き寄せた。
「ねぇ、もう触ってもいいでしょ?」
「どうしようかな?」
 意地悪く微笑む浅倉の肌をシャツ越しに柔らかく撫で上げた。そして
指先に確かな突起を捕らえて刺激しながら軽く口づける。
「体は触ってほしいみたいだけど?」



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