『Trick or Treat!』


 仕事帰りに浅倉宅に立ち寄った伊藤は両手にたくさんの
お菓子を手にしていた。
「どうしたの、これ」
「もらったんだよ。ほら、今日ハロウィンだから皆で用意して
 騒いでたんだ」
「……仕事してたんじゃないの?」
 呆れたように言う浅倉に伊藤は肩をすくめて笑った。
 テーブルに広げられたお菓子はどれもハロウィン用に可愛
くラッピングされている。他愛のないお菓子でも、そうされて
いるだけで美味しそうに見えるから不思議だ。
「ボクも欲しいなあ」
「だーめ。これは俺の」
 そう言ってわざと見せびらかせるようにお菓子を口に運ぶ
伊藤に、浅倉はむぅと唇を尖らせた。
「お菓子くれなきゃイタズラするよ?」
 ハロウィンのおきまりセリフを言う浅倉に伊藤は笑いなが
ら答えた。
「大ちゃんにはいつもイタズラされているから怖くないよ」
 その言葉に浅倉はますますふてくされていたが、やがて何
か思いついたのか伊藤の傍に寄るとそっとキスをした。伊藤
は一瞬目を丸くしたが、すぐに笑みを浮かべて浅倉の腰に腕
を回す。
「こんなイタズラなら大歓迎だけどね」
「そぉ?」
 浅倉は小さく笑いを漏らすと伊藤の肩に手を置いて、そして
自分の体重をかけていく。突然のことに力を抜いていた伊藤
は体勢を整える間もなく浅倉に押し倒される格好になる。
「ちょっと大ちゃん?」
「イタズラ大歓迎なんでしょ?」
 そう言ってゆっくりと微笑む浅倉を伊藤は驚きで迎える。
「誘ってんの?」
「まさか」
 伊藤の問いに浅倉は即答で否定した。
「言ったでしょ?これはボクのイタズラだよ」
 その言葉の真意を計りかねていた伊藤だったが、それは
すぐに身をもって思い知ることになる。浅倉は自分の体に
触れさせないのだ。ただ自分が伊藤を追い込むだけ。
「これってずるくない?」
「どうして?イタズラ大歓迎なんでしょ?」
 そう言って浅倉は伊藤に口づける。そして少しずつ唇の位
置を下げていく。いつもとは逆の立場に伊藤は戸惑いが隠
せない。
「大ちゃん……やっぱこれはちょっと……」
 ゆっくりとした手つきでシャツを開け、まるで戯れのように
キスをする浅倉の肩を押さえて伊藤はそう言った。
「え?気持ちよくない?」
「いや、いいとか悪いとかではなくて」
「やっぱ初めてだと上手く出来ないのかなあ。伊藤くんと同
 じことやってるつもりなのに」
 ぶつぶつと独り言を繰り返す浅倉に、そうじゃなくて!と言
いたくなる伊藤だ。
「こういうのもたまにはいいけど、でも俺は大ちゃんを抱きた
 いよ?」
「だーめ。まだイタズラ終わってないもん」
「イタズラの範囲を超えてる気がするんですけど……」
 涙目で訴える伊藤に、浅倉は小さく笑いを漏らした。
「これからだよ」
 そう言って伊藤の細身のパンツに手をかけると、そっと前を
開いた。その先が分かる伊藤は慌てて体を起こす。
「それヤバいって!」
「うるさいな」
 浅倉は止めようとする伊藤を無視し、そっと手を添えると、
ゆっくりと口に含んだ。
「だ、いちゃ……」
 強烈な感覚に伊藤が眉をしかめる。なんとか引き離そうと
手を伸ばしてみたが、その瞬間きつく吸い上げられて全身が
強張る。
「大ちゃん……マジで、ストップ」
「……気持ちいい?」
 唇を離して視線を上げる浅倉に伊藤は頷いてみせた。
「イッちゃいそうなぐらいね」
「いいよ。受け止めてあげるから」
「いや、だから、それはちょっと……」
 伊藤の制止を気に止める風もなく、浅倉は再び伊藤自身を
口に含んだ。そしてその解放を求めるように唇で舌で伊藤を
追いつめる。そうされる伊藤はなんとか自身を抑えようと必死
の思いで耐える。しかし愛しい人が煽る快楽に追いつめられ
てしまう。
「大ちゃん……」
 必死で絞り出したような声に伊藤の限界を知った浅倉は彼
を包む手に力を込めた。
「いいよ……」
 そう言うと先を促すように軽く歯を立てた。
「ごめん……っ」
 伊藤は苦しげにそう呟いた後、浅倉の咥内に自身を放った。
「大丈夫……?」
「なにが?」
 荒い息をつきながら聞く伊藤に浅倉はゆっくりと顔を上げな
がら問い返した。そして飲み下しきれずに唇に残った彼のも
のをゆっくりと舌で嘗め取る。その仕草がやけに扇情的で、
伊藤の中で新たな熱が生まれる。
「ねぇ」
 浅倉は伊藤に覆いかぶさるとその耳に囁きを落とした。
「いたずら、どうだった?」
 その言葉に伊藤は汗でしっとりと濡れた前髪をかきあげな
がら苦笑した。
「サイコウだけどサイアク」
 浅倉はくすくすと笑いながら軽くキスをしてその目をのぞき
こむ。
「ボクを抱きたい?」
「嫌がったら犯しそうなぐらいね」
「ヘンタイだなあ」
 伊藤は笑い続ける浅倉の腰を抱き寄せて体を入れ替えた。
シャツを乱暴にはぎ取って細い体のラインに手を這わせる。
「俺をヘンタイにしたのは大ちゃんだよ」
 彼がいなければ、彼でなければこんなにも狂わない。浅倉
は小さく笑うとその首に腕を回した。
「そうだよ」
 そう言って軽くキスをする。
「伊藤くんをヘンタイにしたのはボクだよ。だから、もうボクし
 か抱いちゃだめなんだからね。他の誰かを抱きたいなんて
 思ったら許さないんだから」
「大ちゃん……?」
「だって、ボクは君にだけ狂ってるんだもん」
 一緒でなければ、フェアじゃない。恋愛をするなら、愛し合
うなら常に対等がいい。浅倉の言葉に伊藤はくすりと笑った。
「じゃあ、他の誰も欲しいと思えなくなるぐらい、抱かれてよ」
 そう言って浅倉の両足を抱えると、半ば強引に押し入った。
まだ慣らされていなかった箇所は悲鳴を上げるかのように
伊藤の侵入を拒む。痛みが更にその体を頑なにしていた。
「大ちゃん……」
 深呼吸して、という囁きと共に口づけると浅倉は小さく頷い
てゆっくりと震える息を吐いた。目に溜まっていた滴が頬を
滑り落ちる。大きく呼吸をすることでわずかに体に緩急が生
まれ、その隙間を見つけて深く自身を突き立てる。その衝撃
に浅倉は大きく首をのけぞらせた。誘うようにさらけ出された
白い首筋に噛みつくようなキスをすると、小さな悲鳴が上がっ
た。決して痛みのせいではない色を感じて伊藤はゆっくりと浅
倉の中で動き始める。わずかな擦れにも体を緊張させていた
浅倉だったが、次第にその動きについてくるようになった。漏
れる息が苦痛から快楽へと変わり、苦しげに歪んでいた表情
が艶を増す。伊藤はその変化が好きだった。自分の色に染
まる変化は、彼が他の誰でもない、自分のものだと教えてい
る。あがる嬌声を更に煽るように律動を大きくする。滴る汗が
浅倉の胸で弾ける。
「い、とう、く……」
「うん……一緒に……大ちゃん」
「……うん」
 伊藤が小刻みに律動すると、浅倉はより深く受け入れよう
と腰を浮かせる。2人で同じ快楽を追い、そして同じ瞬間、同
じ熱い想いを吐き出す。
「どうだった……?」
 治まらない荒い呼吸の中、浅倉が聞く。
「……え?」
「イタズラ」
 少し前と同じ質問を繰り返す浅倉に伊藤は笑った。
「サイアクだけどサイコウ」
 その言葉に浅倉もくすくすと笑った。そしてその耳に唇を寄
せて囁く。
「ボクもサイコウ」
 そして額を寄せ合って笑う。同じ時を共有した者だけが分か
ち合える秘密を告げるように。


 互いに罠を仕掛け、罠に堕ちる。
 魔が行う祭典の夜になら、それも許されるだろう。




              

















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