伊藤は浅倉の涙に気づいて、そっとその目を覆う手を
離した。
「大ちゃん……?」
「こんなの……やだよ……」
涙を零すほどに無理を強いていたのかと伊藤は自分を
責めた。
「ごめん……」
「こんなの、気持ちよくなんかないよ……」
静かに流れる涙に伊藤は言葉を失い、ただ優しく抱き
寄せる。自分の行為を後悔しても遅くて。
「ボクは、愛されたい」
「……え?」
「愛してほしい。1人きりじゃ、いやだよ。1人きりの夜を
教えないで……」
浅倉の告白に伊藤は目を丸くした。まさかこんなことを
思っているなんて考えもしなかった。強烈な想いに、言
葉が返せない。
「1人は、やだ……」
心細いその声に、伊藤は抱き寄せる腕に力をこめた。
「1人になんかしないよ」
「………」
「傍にいるよ。いつだって愛してる。……ごめん、不安に
させた」
伊藤の言葉に浅倉は小さく首を振った。
「記憶の中の君より、今の君がいい……」
そう言って濡れた目で伊藤をまっすぐに見つめる。
「愛して……もっと」
伊藤はまだ涙の残る目元に口づけて、そしてそっと浅
倉の手を取った。
「あ……」
先刻浅倉が放ったものが残る指を、伊藤の舌が丁寧
に舐めとっていく。驚いた浅倉が手を引こうとするのを許
さず、1本1本時間をかけて舌を絡めた。
「や……もう、いい……」
まるで丁寧な愛撫を施しているかのような舌使いに耐
えられなくなってそう言うと、伊藤は視線だけ上げて浅
倉を見つめると、口の端を上げて微かに笑った。
「あっ」
舌を離されてほっとしたのも束の間、今度は唇に咥え
られて思わず声があがる。ゆっくりと指先から根元まで
行き来する唇と絡みつく舌は別の行為を連想させて、思
わず頬が染まる。
「も、もういいって!」
スキを見つけて手を引いた浅倉は真っ赤な顔で言った。
「指より別のトコにしてほしかった?」
ん?と問われて浅倉はますます頬を赤くする。
「そ、そんなこと言ってないよっ」
「ふーん?じゃあカラダに聞いてみよう」
そう言うと伊藤は浅倉の中心に顔を埋めた。
「やっ……」
突然の刺激に体が跳ね上がる。
「今度はちゃんと気持ちよくしてあげるから」
そう言って伊藤は行為に没頭し始めた。荒い息遣いと
濡れた濁音が淫らに部屋を埋め尽くす。いつもより丁寧
で、それでいて情熱的に貪られながら浅倉は指が白くな
るほどシーツを握り締めていた。そうしないと意識が途切
れてしまいそうだったからだ。自分でもおかしいと思うほ
どに、限界はあっけなく訪れようとしていた。
「イッていいよ……」
伊藤のその言葉がきっかけだったかのように、浅倉は
大きく体をしならせると小さな悲鳴と共に全てを放った。
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